女を待っていた。或る男の許へ送り込んだ女だ。男を監視させ、取り入らせている。あの男には何か秘密がある。それも飛び切り重要な何か、FASRAを転覆させられるような秘密が。奴の動向を探れば、次第に迫りつつある破滅を引っ繰り返すことができる。そうでなければ俺たちに明日はない。網膜スキャンのない旧市街の路地裏だけが俺たちに許された安息の地だった。もっともスキャンがないということは、それ自体が不穏分子を一箇所に集めておくための手法なのだろう。反FASRAのレジスタンス活動は急速に矮小化しつつある。奴らはその気になればいつでも俺たちを潰せるのだ。そうしないのは歯牙にもかけられていないからだという、極めて屈辱的な事実だった。しかし今は違う。俺たちは奴らの急所を押さえつつある。
お待たせしました。御主人様。
直ぐ背後から声をかけられた。この女は足音もさせずに近寄ってくる。掴みどころのない女だ。今回は昼間に呼び出しをかけた。
それで、男には何と言って出てきたんだ。
出掛けてくるとだけ。
フン、奴とはもう寝たのか?
いえ……。
何でもいい、奴がお前の言うことを聞くように仕向けろ。懐柔しろ。たらしこめ。
この身体を使えば簡単だろう。そう言って遠慮なく胸を鷲掴みにしてやった。瞬間、女は息を詰まらせた。黙って俺の手が自らの上を滑るのを見ている。指先に力を込めると、小さな呻きが聞こえた。
お前は俺達総出で仕込んだんだ。並の男なら必ず虜になるだろうさ。全くお前は最高だよ。良い拾い物だった。命を助けてやったんだ。地下にお前を匿いFASRAから隠してやった恩はキッチリ返さなくてはな。
わかっています。
ならいつものように態度で示せ。誠意を見せろ。
薄汚れた路地裏でゴミ箱を椅子代わりに腰を下ろし、女をその前に跪かせる。女は慣れたもので、口だけで俺のズボンのファスナーを下ろした。それから下着越しに“御主人様”に口づけを繰り返した。それがこの主従関係における作法だった。そうして充分に膨らみを増した頃合いで、女は下着の前を開け、露出したものを口に含んだ。熱を帯びた舌が柔らかく絡みつく。もう幾度となく味わった感触だった。女は両手を膝の上に置いたまま、頭だけを動かして奉仕を続けた。そうするよう俺が躾けた。湿り気を帯びた、爆ぜるような音だけが女の動きに合わせて聞こえてくる。我慢などする必要はない。高まりきった猛りを女の喉奥に散らかした。女の喉が鳴るのを聴いた。
……沢山、お情けを戴いて、ありがとうございます、御主人様……。
女は口を軽く押さえ、薄く微笑みながら口上を述べた。この状況で、容易く笑って見せられる女の淫靡さが恐ろしく感じたこともある。同時に、この女に触れてから収まることのない昂ぶりもまた。はやく、はやく、解消しなくてはいけない。
………壁に手を付くんだ。

この女が助けてくれとレジスタンスへ逃げ込んできたとき、こいつはFASRAのスパイだと仲間の全員が疑った。疑うはずだった。女を見た刹那、一拍、時が止まったかのようだった。
沈黙の後、男共の目の色が変わっていた。なぁ、殺すのは後でもいい……それよりあの身体だ……そう言っているのが解った。日の当たる場所を歩けない俺たちは皆ご無沙汰で、女の肌に餓えていた。ギラついた獣の眼光が女を刺すのが見えた。

ひとまず山中の隠れ家に連れていき、スパイへの対処として一通り締め上げたが何も吐かなかった。ただ助けてと繰り返すばかりだった。
それからベッドに縛り付け、全員で代わる代わる好き放題に“尋問”した。獣が群がりヒトの尊厳も言葉もなく蹂躙した。女はされるがままだった。それどころかじきに甘ったるい声で鳴き始めた。男共は嬌声に気を良くしてやれ何度気をやらせるか賭けよう等と笑っていた。その一週間、女には精液と小便しか口にさせなかったが、倒れることもなく吐き出された獣欲をその肉で受け止め続けた。従順になるまで休みなく責め続けるつもりだったが、女は最初から抵抗らしい抵抗はしなかった。それがますます腑に落ちず、拘束は解いたが首輪と鎖で繋いで個室を与えた上で、暇を見てはまた犯すだけの日々が続いた。メンバーの一人が個室のドアに「restroom」と書いた紙を貼った。皆そこで用を足した。避妊などしていなかったが妊娠する様子もなく三か月が過ぎた。
メンバーの精液の味を覚えさせるまで徹底的に犯し続けたが女は精神を保ち続けていた。殴りながら犯しても口を割らなかった。アザも腫れも残らなかった。嫌というほど鞭をくれてやったが傷痕も翌朝には消えていた。気味の悪い、得体の知れない女だ。そこでようやく女の言う、《ファスラム》の話を聞いてみる気になった。
《ファスラム》なるものはFASRAの極秘プロジェクトの集大成であり、自分はその計画の一環で生まれた、と女はいう。しかし目の前の女は作り物などではなかった。どう見ても人間、スキャンしてもインプラントの影すらも映らない。しかし女が普通でないことは実感として理解していた。連中はこのファスラムを流通させ、普及しきった頃合いを見て次の計画にコマを進める、という目論見らしい。それが本当ならいったいこんな女を使って何をするつもりなのか。それがわからないことには今後の行動方針が定まらない。他所のグループにも探らせることにした。「ファスラムとは何か?」
調査は一向に進まなかった。FASRA社の内通者も極秘プロジェクトに絡むほど内部に食い込んでいるものはいなかった。苛立ちが募るばかりだった。女といえば相も変わらず犯されていた。いや、このころになると「抱かれていた」といった方が正しい様子だった。男共も従順な女に必要以上の手荒な真似をすることもなくなり、かといって正体を失うような様子のない女の平坦な心を、いかに惹きつけられるかに注力するようになっていた。甘い言葉をささやきながら果てるもの。清楚なドレスを着せ、ベッドに花を飾り、夢の中で催すもの。ひたすら夜が薄らぐまで奉仕し続けるもの。様々だった。便所の女は山小屋の白雪姫へと変わっていた。いや、変えられたのは男共だった。この俺でさえ女への執着が日に日に強くなるのがわかった。これは脅威だ。しかし上手く使えば武器になる。
俺はこの女を使いFASRAの重役から情報を抜き出すことを考えた。古典的な手だがそれ故最新のセキュリティなどは役に立たない。ここでの男共の有様を鑑みるに、十分に成功の見込める手だといえた。すぐさまリストアップした重役会メンバーのもとへ順に女を送り込んだ。女は十数名の老人たちと関係した。覿面だった。孫娘ほども歳の離れた女に対してずいぶんな可愛がりようだった。ひっきりなしに連絡が来ては女を送り出していく。老人たちは多額の金、豪奢な宝石と引き換えに女の媚を貪った。戦利品と共に隠れ家へ戻ってきた女を男共はいつも以上にしつこく犯した。老人の加齢臭を上書きする為のマーキング行為だった。女はそうした夜、体中を精液塗れにされて朝を迎えた。
愛人へのご機嫌伺いのお陰で活動資金はかなり潤沢になったが、結局老人の口からファスラムの言葉が出ることはなかった。何か別の糸口が必要だった。
そうこうしている間に、ついにFASRAから新規事業の立ち上げ予定が報じられた。FASRA・メイドサービス。家政婦の派遣事業のようなものだったが、それがファスラムであることは明らかだった。女はメイドだったというわけだ。従順なのもそれで得心が行った。その日の内に女にはメイド服が与えられた。今後巷に流れるであろうファスラムに紛れる為としてであったが、その夜から日常の性欲処理は“奉仕”へと名前を変えた。
そんな折、内通者がFASRA社内の人事記録から、一点だけ不可解な異動が記録されていたのを見つけた。
ガニメデシステムクリエイション システム開発室 室長補佐 ****
この取るに足らない末端人事を指示したのは他でもないFASRAグループの筆頭経営者“代表”本人だった。
これは絶対に何かある。そこに一縷の望みを見出した俺たちは、女をその****という男のもとへ送り込んだ。
女を後ろ向きに立たせ、壁に手を付かせた。女は当然のようにつま先立ちで尻を浮かせている。いつも決まってそうさせてきた。長いスカートを捲り上げると、すらりと伸びた脚線が再び劣情を刺激し、股間が熱を帯びるのがわかった。無造作にレースの下着を摺り下すと、裂け目をこじ開け無遠慮に最奥まで押し入った。熱い、熱い蜜が侵入者を押し返すように溢れ出た。柔肉に包み込まれた先端が脳と一緒に蕩かされたかのような快楽だった。それから餅のように形を変える尻の脂肪に指を埋めて弄びつつ、夢中で腰を振った。肉壁を抉り擦るたびに、女と自分の境界線がわからなくなるようだった。境目から溶け合い、突いても抜いても隙間なく吸い付いて離れない。俺はたまらなくなって奥へ奥へと体重をかけた。たまらなくなっていたのは女も同様で、女は声を抑えもせず、媚を路地裏中に撒き散らした。突き上げるたびに漏れる甘い吐息が絶頂までの階段を手招きして誘う。女は長く艶のある髪を振り乱して悦んだ。ああ、ああ、とうつろな嬌声が響き、女は身震いして身体を強張らせた。早くも達したらしい。数え切れないほどの性交により女の身体はとうに貪欲に性感を貪るための身体に作り替えられていた。それでも構わず乱暴に女の中を掻き回し続ける。前後左右に突き入れるたび面白いように女の身体が反応を返す。鳴いて、震えて、締め付ける。ぴちゃぴちゃと水っぽい音が響き女の足元に愛液の海を作っていた。知り尽くした女の良いところをしつこく先端で撫で続けると一層甲高い鳴き声が立て続けに起こった。淫らな雌猫は俺の怒りの前に屈服し、ごめんなさい、ごめんなさいと鳴いて見せた。この女がここまで乱れるのは俺を相手にしている時だけだ。山小屋で穴という穴を犯されている時でもなく、しわがれた老人たちの上で跳ね回っている時でもない。俺が、俺だけがこの女を真に支配している。言ってみろ、この身体は誰の物だ。言え、と詰り腰を深く押し込んだ。女はびくりとして背中を反らし、はい、御主人様の物です、と鼻にかかる声で答えた。答えたようだがもう鳴き声と区別がつかず何と言ったかわからなかった。それからは捩じ込むたびにきもちいい、ごめんなさいと訳も分からず繰り返すだけだった。女のブラウスのボタンを解き、一際大きな胸を外気に晒す。突くたびに暴れる左右の膨らみをすくい上げるように掌で包み、その柔らかな感触と重みを楽しみながらさらに腰を速くした。もう、だめ、やだ、と泣き言を言ったかと思うと女がまた絶頂した。きゅうきゅうと蜜塗れの肉が媚びへつらうように絡みついた。折れそうに細い腰を掴み、華奢なラインとはアンバランスに丸みを帯びた尻肉を弾ませるように叩きつけてやると、背後からでも露になった豊乳が揺れるのが見えた。突いては跳ね、押し返し、受け止めては突き返し、ただひたすら女を使って快楽を高めることに没頭した。もう限界だった。俺は女の肉の柔らかさをぴったり密着させた下腹部で味わいながら、女の髪を掴んで手綱のように引き、最奥に先端を擦り付けたままこみ上げたものを全て放った。熱い濁流が流れ込むたび女は身体を反らし悲鳴を上げながらがくがくと震え、震えるたびに肉壁はきつく、精を絞り出すようにうねり蠢いた。女は肩で息をして、繋がったまま振り返り熱っぽい目でこちらを見ていた。女は時折こうして次をおねだりした。緩やかに尻を左右に振ってそれとなく誘っている。浅ましい女だ。それから息を整え、次は女を壁に寄りかからせ、とろとろに蕩けた穴を前から貫いた。胸を掴み、甘い口を思うさま吸って乾いた喉を潤し、また女の中に放出した。結局その日は近くの安宿に女を連れ込みロクに弾まないベッドの上でたっぷり愉しんだ。別れるころには辺りはとうに暗くなっていた。女は男が心配すると言って足早に宿を出ていった。あんなどこの馬の骨ともしれない男に差し出すには勿体無い玩具だ。男を狂わせるためだけにあるような身体だった。こいつは一生俺の慰み者だ。これほどの女はどこにもいない。
男の素性は未だに謎だらけだったが、職場での行動に不自然な点が見受けられた。ひっきりなしに大型バスが乗り入れ、男を含む社員数名をどこかへ運んでは夕方になると帰ってくるというものだった。どうやら別の場所で他人には見せられない仕事をさせているらしい。バスはFASRAの私有地の奥へ入り込んで行くようだったがその先へは警備が厳重でとても潜入できるような状態ではなかった。上空から覗こうにも偏光スクリーンが完璧に張り巡らされていた。やはり男の方から攻めるしかないようだった。今日の定期報告もさして目立った進捗は無し、だが落胆することはなかった。俺たちはFASRAの急所の一歩前まで来ている。焦ることはない。女は俺の手の内にある。鈍い疲労が霞のように広がった頭で、次の呼び出しはいつにしようか考えていた。(了)